「クレアチンを飲むとハゲるらしい」。「テストステロンが増えて筋肉がつくらしい」。筋トレを始めると、必ずこの2つを耳にします。クレアチンは世界でもっとも研究されたサプリの一つです。それなのに、この誤解だけはしぶとく生き残っています。噂の出どころはどこか。人で確かめられたのはどこまでか。2026年9月時点で実在を確認できた論文だけで整理します。
- 「ハゲる」の元は1件の小さな研究。脱毛は測っていない。
- 12週間の試験では毛髪もホルモンも悪化なし。
- 効くのは筋肉のエネルギー。ホルモンの成分ではない。
- 勃起や性欲は別ルート。シトルリンなど1成分ごとのmgで見る。
クレアチンって何をする成分?

クレアチンは、筋肉の中でエネルギーを作り直す成分です。ホルモンを動かす成分ではありません。ここを取り違えると、噂の意味まで読み違えます。
肉や魚に含まれ、体内でも作られます。筋肉の中ではクレアチンリン酸という形で蓄えられます。重い物を持ち上げる、全力で走る。そうした短くて強い動きでは、エネルギーの通貨であるATPが一気に減ります。クレアチンリン酸は、その減ったATPをその場で作り直す予備タンクです。
効果の中身は、サプリの中でも際立ってよく調べられています。国際スポーツ栄養学会(ISSN)の指針は、筋力・パワー・運動パフォーマンスの向上に有効だと結論づけています。確度 高(ISSN position stand 2017)健康な人での安全性が高いことも、同じ指針が整理しています。運動パフォーマンスへの有効性は、別の総説でも支持されています。確度 高(Cooper 2012)筋トレとホルモンの関係は筋トレとテストステロンでも扱っています。
クレアチンは「筋肉の予備電池」。
ホルモンのスイッチではない。噂の多くは、この置き場所を間違えている。
「ハゲる」の噂はどこから来た?

出どころははっきりしています。2009年に発表された、たった1件の小さな研究です。大学ラグビー選手を対象に、3週間だけ調べたものでした。
この研究では、クレアチンを摂った後にDHT(ジヒドロテストステロン)とテストステロンの比が上がったと報告されました。確度 参考(van der Merwe 2009)DHTは、男性型脱毛症(AGA)に関わる男性ホルモンです。ここから「クレアチン→DHT→ハゲる」という連想が広まりました。
薄毛と男性ホルモンの関係そのものは、テストステロンと薄毛の神話で詳しく扱っています。DHTと髪の話は、クレアチン以前に誤解の多い領域です。
測ったのは血液の数値だけ。髪は数えていない。
3週間・少人数の1件。ここから脱毛を結論づけるのは飛びすぎ。
12週間の試験では何が起きた?

毛髪にもホルモンにも、悪い変化は出ませんでした。2025年に発表された12週間の試験です。健康なトレーニング男性45人が参加しました。
この試験はRCT(くじ引きで振り分けて比べる方法)で行われました。クレアチンは1日5gです。DHTやDHT対テストステロン比を含むホルモンに、有意(偶然では説明しにくい差)な悪化はありませんでした。毛髪に関する指標にも、悪影響は認められませんでした。確度 中(12-week RCT 2025)
2009年の研究と何が違うのか。表で並べると、噂の弱さがはっきりします。
期間が長く、髪そのものを見た試験のほうが、この疑問には直接答えています。もちろん45人は大規模ではありません。今後、より大きな試験で確かめる価値はあります。
髪を見た試験では、悪化していない。
45人・12週間。規模は中くらいだが、噂よりはるかに近い距離から見ている。
テストステロンは増えるの?

増えるという確かな証拠はありません。クレアチンの働きは筋肉のエネルギー側にあります。ホルモンを押し上げる成分ではありません。
クレアチンをめぐる誤解を検証した総説は、テストステロンが増える確かな証拠はないと整理しています。確度 高(Antonio 2021)その続編でも、同じ整理が維持されています。確度 高(Antonio 2024)
図:クレアチンで体つきが変わるのは、ホルモンが動くからではありません。より強く、より多く動けるようになるからです。確度 高
では、なぜ筋肉がつくのか。理由はシンプルです。同じ時間の練習で、あと1回、あと少し重く動ける。その積み重ねが体をつくります。ホルモンを上げる近道ではなく、良い練習を支える裏方です。
ホルモンではなく、練習の質が変わる。
「テストステロンが増えるサプリ」という説明は、そもそも成り立たない。
勃起や性欲への研究はある?

クレアチンで勃起や性欲を測った試験は、調べた範囲では見当たりません。2026年9月時点での話です。良くなるとも悪くなるとも、人では確かめられていません。
理由は場所の違いにあります。勃起は血管の現象です。性的な刺激で一酸化窒素(血管をゆるめて広げる物質。略してNO)が出て、陰茎の血管がゆるみます。血が入り、出口が閉じるから硬さが続きます。順番は勃起はどうやって起こる?で解説しました。クレアチンはATPの再生を助ける成分で、このNOの経路には乗りません。
勃起の硬さを測った試験は、まだ無い。
硬さを左右するのは血管の反応。狙う場所が違うので、まずシトルリンなど血流側の成分をmg単位で見る。
性欲のほうも同じです。性欲はテストステロンや気分、睡眠、人間関係と結びつきます。クレアチンはテストステロンを確かには動かしません。動かす理屈が弱いので、試験も組まれてこなかったと考えられます。性欲そのものの落ち込みは、原因の切り分けが先です。よくある背景は性欲低下の原因にまとめてあります。
血流側の成分を比べたいときは、シトルリンとアルギニンの違いが出発点になります。同じアミノ酸でも、体内での増え方が違います。だから配合量の見方も変わります。
性欲を測った試験も、いまのところ無い。
落ち込みが続くなら、血液検査や受診で原因を切り分ける。栄養で狙うなら、1成分ごとのmgを見る。
活力とスタミナは変わる?

力とスピードを出す場面では、はっきりした報告があります。一方で、日常の「疲れにくさ」を主役に測った試験は多くありません。測られてきた尺度が違う、ということです。
まず運動面です。ISSNの指針は、筋力・パワー・高強度の反復運動での有効性を整理しています。確度 高(ISSN position stand 2017)ここは長年の積み上げがあります。
次に頭の働きです。睡眠不足の状況を作った試験があります。15人が21時間起きたままの状態で、体重1kgあたり0.35gを1回だけ摂りました。作業記憶と処理速度が、プラセボ(見た目は同じで中身の入っていない偽物)より良い結果でした。確度 中(Gordji-Nejad 2024)ただし15人・1回きりの特殊な条件です。
ここで尺度をはっきりさせます。これらが測ったのは、実験室の課題成績や運動の出力です。「夕方まで元気が持たない」という日常の体感そのものではありません。倦怠感を主要評価にした質の高い試験は、見当たりませんでした。
測られたのは出力と課題成績。日常の体感は別の尺度。
力とスピード、睡眠不足下の頭の働きには報告がある。日中の活力を狙うなら、睡眠と血流も合わせて見て、成分は1つずつのmgで確かめる。
精子や射精との関係は?

精子は、大量のエネルギーを使いながら泳ぐ細胞です。クレアチンの代謝は、その供給に関わると整理されています。ただし人での試験は、まだ小さいものだけです。
総説は、精液中のクレアチンが少ない状態と、精子の数や運動率の低さが結びつくと整理しています。確度 関連(Ostojic 2022)また、クレアチンキナーゼ(クレアチンを使う酵素)の活性は、以前から精子の質の目安として調べられてきました。確度 関連(1990 / 2001)
動物では、体外受精の培養液にクレアチンを加えた実験があります。マウスとブタで、運動性と速度が上がったと同じ総説が紹介しています。確度 参考ヒトの妊娠率を見た話ではありません。
人での試験もあります。2025年に発表された8週間の予備試験です。参加者は15人で、うち5人が乏精子症でした。クレアチン単独と、ユビキノールを併せた形で調べています。確度 参考(Nedeljkovic 2025)ただし15人は結論を出せる規模ではありません。予備試験とは、本番の試験を設計するための下調べです。
妊活の文脈では、コエンザイムQ10と精子も比較の対象になります。どれも「まず現状の数字を持っているか」から始まります。
精子のエネルギー側で研究されている段階。ヒトの結論はまだ先。
妊活が目的なら、先に精液検査で現状を測る。数字がないと、何を足しても変化を確かめられない。
安全に使うには何を見る?

健康な成人が1日3〜5g程度を使うぶんには、安全性が高いと整理されています。確度 高(ISSN position stand 2017)腎臓に持病がある人は、自己判断で始めないでください。
「腎臓に悪い」という別の噂もあります。健康な腎臓を持つ人では、その証拠は乏しいというのが総説の整理です。確度 高(Antonio 2021)ただし、これは健康な人の話です。すでに腎臓や肝臓に病気がある場合は、必ず主治医に確認してください。サプリ全般の使い方はサプリの安全性ガイドにまとめています。
始める前に主治医へ。
薬剤師に飲み合わせを確認。
いつもより意識して摂る。
噂の見分け方も、この記事の持ち帰りです。確かめる点は3つだけ。誰が言っているか。何人を何週間調べたか。何を測ったか。今回の例なら、3週間・少人数・血液の数値だけ、が答えでした。この3点を聞くだけで、根拠のない不安はかなり減ります。
健康な人の推奨量なら、安全性の評価は高い。
持病があるなら受診が先。噂は「何人を・何週間・何を測ったか」で確かめる。
よくある質問(FAQ)
**Q. クレアチンを飲むと本当にハゲますか?**
A. 「ハゲる」という確かな証拠はありません。噂の元は3週間・少人数の研究1件で、脱毛そのものは測っていません。2025年の12週間の試験では、DHTにも毛髪の指標にも悪化は出ませんでした。AGAが強く心配なら、飲む前に医師へ相談してください。
**Q. クレアチンでテストステロンは増えますか?**
A. 増えるという確かな証拠はありません。クレアチンは筋肉のエネルギーを支える成分です。体つきが変わるのは、より強い練習ができるようになる間接的な効果によるものです。
**Q. 勃起や性欲に影響はありますか?**
A. 良くも悪くも、人で測った試験は見当たりません。勃起は血管の反応で決まります。クレアチンはその経路には働きません。硬さや性欲が気になる場合は、血流やホルモンの側から見ていくほうが筋が通ります。
**Q. 妊活中でも飲んでいいですか?**
A. 精子とクレアチン代謝の関わりは研究されていますが、人での試験はまだ小規模です。妊活が目的なら、先に精液検査で現状を測ってください。通院中なら、担当医に伝えたうえで判断するのが安全です。
**Q. どのくらいの量が使われていますか?**
A. 研究では1日3〜5g程度の維持量がよく使われます。健康な成人での安全性は高いとされています。持病のある方や不安のある方は、始める前に医師・薬剤師に相談してください。
迷ったら、その主張が何を測ったのかを確かめる。
髪の話も、性の話も、測っていない研究からは何も言えない。
まとめ
「クレアチンでハゲる」も「テストステロンが増える」も、事実を正しく映していません。前者の元は、脱毛を測っていない小さな研究1件です。12週間の試験では、毛髪もホルモンも悪化しませんでした。後者は、そもそも働く場所が違います。
4つの軸で見ると、輪郭がはっきりします。勃起と性欲は、人で測った試験がまだありません。活力は、力とスピード、睡眠不足下の頭の働きに報告があります。精子は、エネルギー代謝の面から研究が進んでいる段階です。分かっている軸と、これからの軸を分けて考えてください。
そのうえで、狙う場所に合った成分を選びます。硬さやめぐりが気になるなら、見るのはNOの経路です。シトルリンやアルギニンが、この軸で調べられてきた成分です。大切なのは名前ではなく、1成分あたり何mg入っているかを確かめられること。ここを開示している製品を選べば、自分の体で確かめられます。
噂ではなく、測られた中身で判断する。
クレアチンは筋肉の軸。硬さやめぐりの軸は、シトルリンなど別の成分をmgで見る。
参考文献
- van der Merwe J, et al. (2009) “Three weeks of creatine monohydrate supplementation affects dihydrotestosterone to testosterone ratio in college-aged rugby players.” Clin J Sport Med 19(5):399-404. PMID: 19741313 — 3週間の摂取でDHT対テストステロン比が上昇。脱毛は未測定で小規模。噂の発端。
- (2025) “Does creatine cause hair loss? A 12-week randomized controlled trial.” J Int Soc Sports Nutr. PMID: 40265319 — 45人・12週・1日5g。DHT、DHT対テストステロン比、毛髪指標に悪化なし。
- Kreider RB, et al. (2017) “International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine.” J Int Soc Sports Nutr 14:18. PMID: 28615996 — 筋力・パフォーマンスへの有効性と、健康な人での高い安全性を整理した学会指針。
- Antonio J, et al. (2021) “Common questions and misconceptions about creatine supplementation: what does the scientific evidence really show?” J Int Soc Sports Nutr 18(1):13. PMID: 33557850 — テストステロン増加、脱毛、腎臓への影響などの俗説を検証。
- Antonio J, et al. (2024) “Part II. Common questions and misconceptions about creatine supplementation.” PMID: 39720835 — 続編。誤解のアップデート。
- Cooper R, et al. (2012) “Creatine supplementation with specific view to exercise/sports performance: an update.” J Int Soc Sports Nutr 9(1):33. PMID: 22817979 — 運動パフォーマンスへの有効性の総説。
- Xu C, et al. (2024) “The effects of creatine supplementation on cognitive function in adults: a systematic review and meta-analysis.” Front Nutr. PMID: 39070254 — 16件のRCT・のべ492人。記憶・注意・処理速度の指標で改善、総合的な認知機能と実行機能では差なし。
- Gordji-Nejad A, et al. (2024) “Single dose creatine improves cognitive performance and induces changes in cerebral high energy phosphates during sleep deprivation.” Sci Rep 14:4937. DOI: 10.1038/s41598-024-54249-9 — 15人・体重1kgあたり0.35gを1回。21時間の断眠下で作業記憶と処理速度が改善。
- Ostojic SM, Stea TH, Engeset D. (2022) “Creatine as a Promising Component of Paternal Preconception Diet.” Nutrients 14(3):586. PMID: 35276945 — 精子のエネルギー代謝とクレアチンの関係を整理した総説。動物の体外受精での培養液実験も紹介。
- (1990) “Sperm creatine kinase activity in fertile and infertile oligospermic men.” PMID: 2312398 — クレアチンキナーゼ活性と精子の質の関連を調べた古典的研究。
- (2001) “Creatine kinase as an indicator of sperm quality and maturity in men with oligospermia.” Urology. PMID: 11549497 — 乏精子症でのクレアチンキナーゼと精子の質・成熟度の関連。
- Nedeljkovic D, et al. (2025) “The effects of 8-week creatine supplementation with and without ubiquinol on sperm quality biomarkers in normospermic and oligospermic men: a randomized controlled pilot trial.” Nutr Health. DOI: 10.1177/02601060251385000 — 15人(うち乏精子症5人)・8週間の予備試験。規模が小さく結論を出す段階ではない。






