- 「降圧薬でED」は薬の種類で答えが変わる。
- 利尿薬と古いβ遮断薬は報告が多い側。
- ARBとネビボロールは逆の結果が出ている。
- 薬は医師と相談。材料側は1成分ごとのmgが分かる設計で選ぶ。
「血圧の薬を飲み始めてから、下半身の元気がなくなった」。中高年男性からよく出る訴えです。この話は半分が本当で、半分が誤解です。カギは、降圧薬をひとくくりにしないこと。薬の種類(クラス)で報告の中身が違います。2026年9月時点で実在を確認した論文だけを使い、勃起・性欲・活力・精子の4つに分けて整理します。
なぜ「降圧薬でED」と言われるの?

3つの別々の話が、ひとつに混ざっているからです。古い薬での報告、高血圧という病気そのものの影響、そして思い込み。これが「薬のせい」の一言にまとまっています。
高血圧の薬には、はたらき方の違うグループがあります。
| グループ(クラス) | よく使われる薬の例 | この記事での位置づけ |
|---|---|---|
| 利尿薬(サイアザイド系) | ヒドロクロロチアジド、クロルタリドン | 報告が多い側 |
| β遮断薬(古いタイプ) | アテノロール、メトプロロール、プロプラノロール | 報告が多い側 |
| β遮断薬(新しいタイプ) | ネビボロール | 逆の結果が出た側 |
| カルシウム拮抗薬 | アムロジピン、ニフェジピン | おおむね中立 |
| ACE阻害薬 | エナラプリル、リシノプリル | おおむね中立 |
| ARB | バルサルタン、ロサルタン | 逆の結果が出た側 |
3つ目は思い込みです。「この薬はEDになる」と聞いてから飲むと、報告が増えます。ノセボ効果と呼ばれ、プラセボ(見た目は同じで中身が入っていない偽物)の逆で、悪い予想が体感に出ます。
○ 軽症高血圧の男性の研究では、医師が口頭でたずねたときより、無記名の質問票のほうが性機能の問題の報告が多くなりました(PMID: 1746997)。聞き方で数字が動きます。
「薬のせい」の中身は、古い薬の報告・病気そのもの・思い込みの3つ。
どれがどれだけ効いているかは、飲んでいる薬の種類と量を並べないと分けられない。
薬の種類で何が違うの?

古い世代の薬は勃起に不利な側、新しい世代は中立から良好な側に並びます。複数の研究を横並びで比べた解析が、この序列を示しています。
◎ 降圧薬のクラスごとに勃起機能への影響を比べたネットワークメタ分析(いくつもの研究をまとめて一つの結論を出す方法のうち、3種類以上を同時に比べる手法)があります。利尿薬・β遮断薬・中枢性の薬が不利な側、ACE阻害薬とカルシウム拮抗薬が中立、ARBとネビボロールが良好な側に並びました(2021年・PMID: 33945044)。
△ 同じ並びは、高血圧と性機能を整理したレビュー(2023年・PMID: 37941540)でも、ガイドラインの推奨を突き合わせたレビュー(2015年・PMID: 26450998)でも示されています。
なぜ差が出るのか。勃起が血管の現象だからです。血管をゆるめる合図になるのが、一酸化窒素(NO=血管をゆるめて広げる物質)です。この合図を弱める薬と、強める薬がある。それが序列の正体です。
NOは体の中でL-アルギニンというアミノ酸から作られます。L-シトルリンは、体内でL-アルギニンに変わる材料として研究されている成分です。薬をどうするかは医師の領域で、材料の話はその外側にあります。
並べて比べた解析では、古い世代が不利、新しい世代は中立から良好だった。
分かれ目は、血管をゆるめる合図を残す設計かどうか。まず自分の薬がどのクラスかを見る。
高血圧そのものが原因では?

その通りで、薬を飲み始める前から土台は削られています。ここを外すと、原因の切り分けを間違えます。
血圧が高い状態が続くと、血管内皮(血管のいちばん内側をおおう膜)が傷みます。この膜は、血管をゆるめる合図を出す役目を持っています。膜が傷むと合図が弱まり、動脈は硬く、内側は狭くなります。
勃起は、陰茎の細い動脈に血液が流れ込んで起こります。この動脈は心臓の血管よりさらに細い。細い管ほど影響を早く受けます。EDが「血管の警告サイン」と呼ばれるのは、このためです。
△ 高血圧の男性ではEDの頻度が高いことが、複数の報告をまとめたレビューで整理されています(PMID: 37941540)。
病気そのもの・薬・加齢・生活習慣・思い込み。この5つが同時に乗っています。薬だけを犯人にすると、残り4つが手つかずで残ります。EDの原因の全体像はEDの原因ガイドで整理しています。
血圧が高いまま放っておくと、細い血管から先に傷む。
薬より前から土台は動いている。開始時期と症状の時期を並べて、どれが重なっているかを見る。
① 勃起への影響は?

利尿薬では実際に差が出た試験があります。一方、短期間の試験では差が出ませんでした。期間と薬の種類で結果が割れます。
○ もっとも引用されるのが米国のTOMHSという試験です。45〜69歳の高血圧の人902人(男性557人)を、プラセボと5種類の薬に振り分けました。2年の時点で勃起の問題を報告した男性は、クロルタリドン(利尿薬)群17.1%、プラセボ群8.1%でした(Grimm 1997, Hypertension 29(1):8-14・PMID: 9039073)。
100人が2年飲んで、9人ぶん多く報告された計算です。裏を返せば、8割以上の人は報告していません。なお同じ試験で4年まで追うと、群の差は小さくなりました。
○ 短期で見た結果は逆でした。6試験をまとめた解析では、男性1251人でインポテンスの報告に群間差が出ていません(p=0.688)。ACE阻害薬・カルシウム拮抗薬・利尿薬・β遮断薬との比較です。ただし服薬期間は平均6〜14週と短いものでした(PMID: 11416589)。
| 何を測ったか | 結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| 2年間の勃起の問題(TOMHS) | 利尿薬17.1% / プラセボ8.1% | 差はあるが全員ではない |
| 4年間まで追ったとき | 群の差は縮んだ | 時間で変わる可能性 |
| 6〜14週の短期(6試験) | プラセボと差なし | 短期では見えにくい |
| クラス別の横並び比較 | 古い世代が不利側 | 種類で答えが変わる |
△ しくみは、古いβ遮断薬では交感神経を抑えること、利尿薬では水分量や電解質の変化が挙げられています(PMID: 25405774)。人での決着はついていません。
利尿薬では2年で9%ぶん多く報告された。短期の試験では差が出なかった。
硬さや朝立ちが気になるなら、薬の名前と開始時期をメモして医師に渡すのが先。
② 性欲と性生活はどうなる?

回数まで数えた試験があり、薬によって差が出ました。性欲そのものを測った試験は少なく、ここは勃起よりデータが薄い領域です。
○ 40〜49歳で新しく高血圧と診断された男性に、カルベジロールとバルサルタン(ARB)を入れ替えて飲んでもらいました。1か月あたりの性交回数は、カルベジロールで3.7回、バルサルタンで10.2回。EDの報告はカルベジロール15人に対し、バルサルタン1人でした(Fogari 2001, Am J Hypertens 14(1):27-31・PMID: 11206674)。
どちらの薬でも最初の1か月は回数が落ちました。その後、片方は落ちたまま、もう片方は元に戻って上回りました。「始めた直後」と「続けたあと」は別物だということです。
○ 利尿薬の試験でも報告があります。35〜70歳の軽症高血圧の男性を、サイアザイド系利尿薬とプラセボに振り分けた試験です。176人が無記名の質問票に答え、性欲の低下・勃起の問題・射精のしにくさが挙がりました(PMID: 1746997)。
○ 一方、短期の比較では性欲の低下に群間差が出ていません(p=0.970・PMID: 11416589)。
| 調べたもの | 測った尺度 | 結果 |
|---|---|---|
| カルベジロール vs バルサルタン | 1か月の性交回数 | 3.7回 vs 10.2回 |
| サイアザイド系利尿薬 | 無記名の質問票 | 性欲の低下の報告あり |
| 6〜14週の短期6試験 | 性欲低下の報告率 | プラセボと差なし |
| 性生活の満足度そのもの | 専用の点数 | 質の高い試験は少ない |
1か月の回数まで数えた試験では、薬の種類で3.7回と10.2回に分かれた。
性欲は薬以外でも動く。落ちた時期と薬を始めた時期を並べて、医師に相談する材料にする。
③ 活力・疲れやすさは?

β遮断薬では、だるさの報告が増えると分かっています。数字にすると、1年で57人に1人の割合です。
◎ 心臓病の患者を対象にした15の試験(合計3万5千人超)をまとめた解析があります。β遮断薬を飲んだ群では、だるさ(倦怠感)の報告が増えました。1年あたり57人に1人の割合です。性機能の問題は199人に1人でした。一方、うつ症状の増加は認められませんでした(Ko 2002, JAMA 288(3):351-357・PMID: 12117400)。
測ったのは「患者が申告した副作用としての倦怠感」で、対象は心臓病を持つ人です。健康な人の「夕方まで体力が持たない」という体感とは、別の尺度になります。
▽ しくみは単純です。β遮断薬は心拍数と心臓の出力を抑えます。運動時に心拍が上がりにくいので、同じ運動でもきつく感じやすくなります。
日常の活力そのものを尺度にして降圧薬を比べた試験は、2026年9月時点では見当たりません。
測ったのは心臓病の人が申告しただるさで、日常のスタミナの尺度ではない。
疲れが出た時期と薬の開始時期を並べる。量と種類は医師と、材料側は1日あたりのmgで見る。
④ 射精と精子への影響は?

射精のしにくさは利尿薬で報告があります。精子については、古い小規模な研究しかありません。
まず射精から。サイアザイド系利尿薬の試験では、射精のしにくさが報告項目に挙がっています(PMID: 1746997)。
◎ 混同されやすいのが前立腺の薬との違いです。前立腺肥大の薬と射精機能をまとめたメタ分析では、タムスロシンとシロドシンで射精障害の報告が大きく増えました(オッズ比8.58と32.5)。一方、血圧の薬にも使うドキサゾシンとテラゾシンはプラセボと同程度でした(2014年・PMID: 24708055)。同じα遮断薬でも分かれます。
△ 精子のほうは、データが古くて小さいのが実情です。カルシウム拮抗薬を飲む男性の精子で、卵子と結合するための受容体のはたらきに変化がみられた報告があります(PMID: 8062958)。服薬をやめて3か月で回復し、妊娠に至った症例報告もあります(PMID: 7782439)。
| 調べた相手 | 研究の有無 | 2026年時点で言えること |
|---|---|---|
| 射精のしにくさ(利尿薬) | あり | 報告項目に挙がっている |
| 射精(ドキサゾシン・テラゾシン) | あり | プラセボと同程度 |
| 射精(タムスロシン・シロドシン) | あり | 報告が大きく増える。血圧の薬ではない |
| 精液所見と降圧薬の大規模試験 | 見当たらない | 症例と小規模報告まで |
降圧薬と精液所見を正面から調べた大きな試験は、2026年9月時点で見当たりません。
だからこそ妊活では順番がはっきりします。推測で薬を疑う前に、精液検査で現状の数字を出す。そうすれば薬と生活習慣と体質を切り分けられます。
射精には報告があり、精子は小さく古いデータしかない。
妊活中なら、まず精液検査で現状を測る。そのうえで薬の一覧を持って医師に相談する順番になる。
味方になる薬はあるの?

あります。ARBと、β遮断薬のなかのネビボロールです。どちらも、悪化ではなく維持や改善の方向で報告されています。
◎ 前出のクラス別の横並び比較では、ARBが良好な側に置かれています(PMID: 33945044)。バルサルタンの試験も同じ方向でした。
ネビボロールは、β遮断薬のなかで例外的な立ち位置です。心拍を抑えるはたらきに加えて、NOを介して血管を広げるはたらきを持ちます。
○ 「MR NOED」という試験では、メトプロロールで勃起機能の指標が下がった一方、ネビボロールでは下がりませんでした(Brixius 2007・PMID: 17324145)。アテノロールと比べた試験でも、ネビボロールのほうが良い結果でした(2007年・PMID: 17532681)。
◎ 複数の比較試験をまとめたメタ分析でも、ネビボロールはメトプロロールよりEDの報告が少なくなりました(2024年・PMID: 39713902)。
限界もあります。ネビボロールの試験は1件あたりの人数が多くありません。期間も数か月単位です。「長く飲んだらどうなるか」は、まだ埋まっていません。
同じ「設計を見る」という読み方は、材料の側にも使えます。血流の基本は一酸化窒素を自然に増やす方法、成分ごとの量の見方は血流・NO系サプリの選び方で整理しています。
同じβ遮断薬でも、ネビボロールでは指標が下がらなかったと報告されている。
分かれ目は血管をゆるめる合図を残す設計かどうか。薬は医師と、材料は1成分ごとのmgで見る。
EDが出たら薬をやめるべき?

やめないでください。自己中断は、EDにとっても命にとっても損な選択です。この記事でいちばん大事な一行です。
理由は3つあります。第一に、血圧が上がれば血管はまた傷みます。細い血管から先に影響が出て、勃起の土台が削られます。
第二に、脳卒中や心筋梗塞のリスクが上がります。EDを避けるための行動が、命のリスクと引き換えになります。
第三に、やめる以外にクラスを替えるという手があります。聞くべきは「やめていいか」ではなく「替えられるか」です。
- 飲んでいる薬の名前と、1日あたりの量。
- 症状が出始めた時期と、薬を始めた時期。
- 気になっているのが勃起か、性欲か、だるさか、射精か。
- 妊活の予定があるかどうか。
- 他に飲んでいる薬とサプリの一覧。
ひとつだけ、安全に関わる注意があります。ED治療薬(PDE5阻害薬)は多くの降圧薬と併用できますが、狭心症などで使う硝酸薬(ニトログリセリン等)との併用は禁忌です。血圧が下がりすぎて危険なため、必ず服用中の薬をすべて申告してください。
似た話はコレステロールの薬でも起きています。スタチンとテストステロン・EDで同じ形の検証をしています。
やめるのではなく、替えられるかを聞く。
薬の名前と量、症状が出た時期をメモして持っていくと、医師が判断しやすくなる。
よくある質問(FAQ)
### 血圧の薬を飲むと必ずEDになりますか?
なりません。2年間の試験でも、利尿薬を飲んだ人の8割以上は報告していません。薬の種類でも結果が変わります。
### β遮断薬はやはり避けるべきですか?
種類によります。古いタイプでは報告があり、ネビボロールでは逆の結果が出ています。どれを使うかは心臓の状態も含めて医師が決めます。
### 飲み始めてすぐ変化を感じたのですが?
最初の1か月に回数が落ち、その後に戻った試験があります。早く判断せず、時期を記録して相談してください。
### サプリで薬の影響を打ち消せますか?
薬の作用を打ち消すという話にはできません。薬の調整は医師の領域です。栄養の側は、1成分ごとのmgが分かる設計かどうかで選びます。
「必ずなる」でも「絶対にならない」でもない。割合の話として読む。
感じた変化は時期とセットで記録する。それが医師と相談するときの材料になる。
4軸のうち数字が揃っているのは勃起と性生活まで。射精と精子は手薄。
まず自分の薬のクラスを確認する。次に気になる軸を決めて、医師に渡す材料をそろえる。
参考文献
- (2021) “Effects of major antihypertensive drug classes on erectile function: a network meta-analysis.” PMID: 33945044 — ARB・ネビボロールが良好側。
- (2023) “Relationship between hypertension, antihypertensive drugs and sexual dysfunction in men and women: a literature review.” Vasc Health Risk Manag PMID: 37941540
- Grimm RH Jr, et al. (1997) “Long-term effects on sexual function of five antihypertensive drugs and nutritional hygienic treatment in hypertensive men and women (TOMHS).” Hypertension 29(1):8-14. PMID: 9039073 — 2年で17.1% vs 8.1%。
- Ko DT, et al. (2002) “Beta-blocker therapy and symptoms of depression, fatigue, and sexual dysfunction.” JAMA 288(3):351-357. PMID: 12117400 — 倦怠感57人に1人、性機能199人に1人。
- Fogari R, et al. (2001) “Sexual activity in hypertensive men treated with valsartan or carvedilol: a crossover study.” Am J Hypertens 14(1):27-31. PMID: 11206674 — 性交回数 3.7回 vs 10.2回。
- (1991) “The impact of diuretic therapy on reported sexual function.” Arch Intern Med 151(12):2402-2408. PMID: 1746997 — 176人。性欲・勃起・射精。
- (2001) “Self reported sexual dysfunction in men and women treated with bisoprolol, hydrochlorothiazide, enalapril, amlodipine, placebo, or bisoprolol/hydrochlorothiazide.” PMID: 11416589 — 1251人。短期は差なし。
- Brixius K, et al. (2007) “Nitric oxide, erectile dysfunction and beta-blocker treatment (MR NOED study): benefit of nebivolol versus metoprolol in hypertensive men.” PMID: 17324145 — ネビボロールは低下せず。
- (2007) “A randomised comparison of the effects of nebivolol and atenolol with and without chlorthalidone on the sexual function of hypertensive men.” PMID: 17532681
- (2024) “Effect of nebivolol on erectile function: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.” PMID: 39713902
- (2015) “Sexual dysfunction related to drugs: a critical review. Part IV: cardiovascular drugs.” PMID: 25405774
- (2015) “Antihypertensive drugs and male sexual dysfunction: a review of adult hypertension guideline recommendations.” PMID: 26450998
- Gacci M, et al. (2014) “Impact of medical treatments for male lower urinary tract symptoms due to benign prostatic hyperplasia on ejaculatory function: a systematic review and meta-analysis.” J Sex Med PMID: 24708055 — ドキサゾシン・テラゾシンはプラセボ同等。
- Benoff S, et al. (1994) “The effect of calcium ion channel blockers on sperm fertilization potential.” Fertil Steril PMID: 8062958 — 受容体のはたらきに変化。
- Benoff S, et al. (1995) “Pregnancy following discontinuation of a calcium channel blocker in the male partner.” PMID: 7782439 — 中止3か月で回復した症例。






