- 甘草はお菓子にも漢方にも入っている甘い成分。
- テストステロンは下がった研究と下がらない研究がある。
- はっきりしているのは血圧が上がりカリウムが減ること。
- 活力の話は、シトルリンなど1成分ごとのmgで見ればいい。
「甘草(リコリス)はテストステロンを下げる」。男性の健康を調べていると、一度は目にする噂です。甘草は海外のリコリス菓子から日本の漢方薬、のど飴、甘味料まで幅広く使われています。だからこそ「本当に下がるのか」「どれくらいで問題になるのか」を知る価値があります。しかも調べていくと、テストステロンより先に注意すべき影響が見えてきます。実在論文で整理します。
甘草って何?

甘草(かんぞう)は、マメ科の植物の根からとれる甘い成分です。英語ではリコリスと呼ばれます。主成分はグリチルリチンで、体の中でグリチルレチン酸という形に変わります。この物質が、この記事の主役です。
やっかいなのは、甘草が想像以上に身近にあることです。意識しないまま、複数のルートから摂っていることがあります。
| どこにあるか | 具体例 | 気づきやすさ |
|---|---|---|
| 漢方薬 | 芍薬甘草湯・葛根湯・小青竜湯 ほか多数 | 成分表に「甘草」と明記 |
| 市販薬 | 風邪薬・胃薬・のど飴 | 「グリチルリチン酸」表記で気づきにくい |
| 食品 | リコリス菓子・甘味料・つくだ煮 | ほぼ気づかない |
| 飲み物 | 甘草入りのお茶・ハーブティー | 毎日だと積み上がる |
つまり「たまにリコリス菓子を食べる人」より、「漢方を毎日飲んでいる人」のほうが摂取量は多くなりがちです。量の話は後半でまとめます。
甘草は薬にも菓子にも入っている、甘い植物の根。
知らないうちに何本もの経路から摂れてしまう点が、この成分の特徴。
テストステロンは下がる?

下がったという報告と、下がらなかったという報告の両方があります。片方だけを見ると話を間違えます。まず両方を並べます。
噂の出発点は1999年の報告です。健康な男性7人が甘草の製剤を1週間とったところ、血のテストステロンが下がったと報告されました。確度 中(PMID: 10515764)同じグループは2003年にも、若い男性で約25%の低下を報告しています。確度 関連(PMID: 14520600)女性でもテストステロンが下がったという報告があります。確度 関連(PMID: 15579328)
しかし2001年、別のグループが同じことを2回試しました。結果は再現できず、唾液のテストステロンは偶然では説明しにくいほどの差になりませんでした。確度 中(PMID: 11716893)この論文は、元の研究との手順の違いと統計の扱いにも疑問を投げています。
2006年には、中等度の量では生物学的に重要な性ホルモンに明確な影響はなかった、と結論づけた研究も出ました。影響の出方は性別でも違うと報告されています。確度 中(PMID: 16462145)
| 報告 | 対象 | 期間 | テストステロンの結果 |
|---|---|---|---|
| 1999年(PMID 10515764) | 健康な男性7人 | 1週間 | 低下したと報告 |
| 2001年(PMID 11716893) | 若い健康な男性 | 短期・2回実施 | 唾液の値に明確な差なし |
| 2003年(PMID 14520600) | 若い健康な男性 | 短期 | 約25%の低下を報告 |
| 2006年(PMID 16462145) | 男女 | 中等量 | 重要な性ホルモンに明確な影響なし |
つまり「甘草を口にしたら必ず下がる」ではありません。人数が7人や十数人と少なく、量も測り方も研究ごとにばらばらです。ここを踏まえて読むのが公平です。
「必ず下がる」も「絶対に下がらない」も言いすぎ。
7人規模の研究が割れている段階、というのが2026年時点の正確な言い方。
量でどう変わる?

分かれ目は量です。研究で影響が拾われているのは、グリチルリチン酸として1日100mg以上を続けた場合です。この線は血圧の研究で使われています。
2017年のメタ分析(いくつもの研究をまとめて一つの結論を出す方法)を見てみます。18の研究・337人分をまとめたところ、血圧の上の数字が平均5.45 mmHg上がりました(95%信頼区間 3.51〜7.39)。血のカリウムは0.33 mmol/L下がりました。確度 高(Penninkilampi 2017・DOI: 10.1038/jhh.2017.45)
この5.45という数字は、つまりどれくらいでしょうか。上の血圧が130の人が135付近になる計算です。健康な人なら体感しません。もともと高血圧の人には、無視できない上乗せです。
大事なのは、この量が「特別な大量摂取」ではないことです。甘草茶の常用や漢方の重ね飲みで、十分に届く水準です。
1日100mgのグリチルリチン酸あたりから、血圧とカリウムに数字の変化が出る。
お菓子でも漢方でも、超えるかどうかは合計の量しだい。
勃起への影響は調べられてる?

甘草を飲んだ人の勃起を測った研究は、2026年時点で見当たりません。IIEFのような勃起の点数を使った試験は、探しても出てきません。ここは正直に「データが無い」と書きます。
ただし、無関係の話でもありません。甘草ではっきりしている影響は血圧の上昇です。そして高血圧とEDの関連は、人を集めた研究で繰り返し報告されています。18の横断研究・41,943人分をまとめた解析では、高血圧の人でEDが多いという関係が出ています(オッズ比1.84、95%信頼区間 1.58〜2.14)。確度 中(PMID: 29785046)
この数字の読み方には注意が要ります。関連があることと、原因であることは別です。それでも陰茎の動脈は細く、血圧や血流の状態が出やすい場所だとされています。血圧の話は高血圧とEDで詳しく扱っています。
甘草と勃起を直接調べた試験は無い。
ただし血圧という別の尺度なら数字がある。まず家庭で血圧を測る、が現実的な一歩。
性欲の研究はあるの?

性欲や性生活の満足度を測った甘草の研究も、調べたかぎり見当たりません。ここが4軸のなかで最も空白の大きい部分です。
近いものはあります。1999年の報告の著者は、性欲の低下がある男性には甘草の摂取を尋ねるべきだ、と述べています。確度 関連(PMID: 10515764)ただしこれは提案であって、性欲そのものを測った結果ではありません。
2022年の総説は、甘草の成分に女性ホルモンのような働きを持つものがあると整理しています。グラブレンやイソリキリチゲニンといった成分です。確度 関連(DOI: 10.1016/j.nut.2022.111727)それでも、男性の性欲を点数で測った臨床研究はここにも出てきません。
性欲を点数で測った甘草の研究は無い。
空白は空白のまま扱う。気になるなら血液検査で数字にするほうが、噂を追うより早い。
だるさ・活力との関係は?

甘草でだるくなることは、実際に報告されています。ただし理由はテストステロンではなくカリウムです。ここは症例が積み上がっている領域です。
グリチルリチンによる低カリウム性の筋障害をまとめた報告があります。59例の平均で、血のカリウムは1.98 mEq/Lまで下がっていました。59例中57例が、甘草の中止とカリウム補給で回復しています。確度 中(PMID: 1563455)
量と期間の実例も残っています。21歳の男性が、甘草を含む市販品を2週間使って筋力低下で受診した例があります。確度 関連(PMID: 20181204)甘草の根で味付けした茶を3年間飲み続け、麻痺に至った例もあります。確度 関連(PMID: 12640291)
- だるさ・脱力:階段や立ち上がりがつらくなる。
- こむら返り:夜のふくらはぎがよく攣る。
- むくみ・体重増加:ナトリウムと水をため込むため。
- 動悸:不整脈につながることがある。
つまり甘草は「エネルギーが湧く成分」ではありません。むしろ疲労や脱力が出る側の話です。日中のスタミナが落ちたと感じるなら、原因を1つに決めつけず数字を見るのが早道です。
甘草でだるくなるのはホルモンではなくカリウムのせい。
血液検査でカリウムはすぐ分かる。活力の設計は、成分ごとのmgを見て別に組み立てればいい。
精子や妊活への影響は?

人の精液所見を調べた甘草の研究は見当たりません。あるのは動物のデータで、そこでは「変わらなかった」という報告が中心です。
ラットに甘草の水抽出物を1日500〜2000mg/kg、9週間与えた研究があります。精巣の重さ、1日の精子産生量、精子の運動率と形に差は出ませんでした。ただし血のテストステロンは下がる傾向が見られました。確度 参考(PMID: 18256514)
逆に、悪い条件を与えた動物では守る側に働いた報告もあります。高脂肪食のラットに甘草抽出物を50・100mg/kg与えた研究では、精子の指標が改善しました。確度 参考(PMID: 32597146)抗がん剤で傷んだマウスの精巣に対しても、200mg/kg・12日で保護的な結果が出ています。確度 参考(PMID: 34484660)
人の精子データは無く、動物では大きな変化なしという報告が中心。
妊活中なら噂を追うより、まず精液検査で今の数字を押さえるほうが確実。
本当の注意点は血圧とカリウム

甘草でもっとも確立している影響は、テストステロンではありません。血圧の上昇と低カリウムです。ここは研究が割れていない、はっきりした薬理です。
この状態を偽アルドステロン症と呼びます。腎臓のホルモン調整の仕組みに甘草が割り込むことで起こります。確度 高(PMID: 16864159)2025年にも、甘草の根の茶を1日3〜4杯、数か月続けたことによる重い高血圧の報告が出ています。確度 関連(PMID: 39753286)
なぜ甘い成分で血圧が上がる?
鍵は、グリチルレチン酸が酵素に割り込むことです。順番に見れば難しくありません。
- 腎臓には11β-HSD2という酵素がある。
- この酵素は、コルチゾール(ストレスホルモン)を働けない形に変える係。
- グリチルレチン酸がこの係を邪魔する。
- 残ったコルチゾールが「塩をため込め」という受容体を刺激する。
- 体はナトリウムと水をため込み、カリウムを捨てる。
- その結果、血圧が上がり、むくみ、カリウムが減る。
同じ理屈で、甘草の成分はテストステロンを作る過程の酵素にも触れると考えられています。これが前半のテストステロンの話につながります。甘草は「甘いだけの成分」ではなく、複数のホルモン調整酵素に作用しうる成分です。
甘草でいちばん確かなのは、血圧が上がりカリウムが減ること。
テストステロンの噂より、こちらを先に押さえるほうが実益がある。
漢方と、気をつけたい人
日本で現実的にいちばん効いてくるのは漢方の重ね飲みです。甘草は非常に多くの処方に入っており、合計量が知らないうちに積み上がります。
芍薬甘草湯、葛根湯、小青竜湯。どれにも甘草が入っています。ここに市販の風邪薬やのど飴が重なると、1日100mgの線はあっさり超えます。「漢方だから安全」というイメージは、甘草に関しては逆に働きます。
逆に、健康な人がたまにリコリス菓子を少し食べる程度なら、過度に心配する必要はありません。問題になるのは「毎日・多め・長期間」の組み合わせです。飲み合わせの全体像はサプリの安全性ハブにまとめています。
ここで一歩引くと、活力まわりの成分選びの原則が見えてきます。量が書かれているかどうかです。甘草で問題が起きるのは、合計量が見えないまま積み上がるからでした。逆に言えば、1成分ごとのmgが開示されていれば、足し算も引き算もできます。ラベルの見方はサプリのラベルの読み方で解説しています。
漢方・市販薬・のど飴を足すと、甘草は簡単に積み上がる。
合計のmgが見えるかどうかが分かれ目。見えない足し算をしないこと。
まとめ
甘草の噂は、優先順位をつけると整理できます。テストステロンの低下は、高い量で報告があるものの、再現できなかった研究もあります。日常の少量で意味のある変化が出るという確かな証拠は乏しい状態です。
一方で、血圧の上昇と低カリウムは確立しています。1日100mgのグリチルリチン酸あたりから数字が動きます。勃起・性欲・精子については、人で直接測った研究が2026年時点で見当たりません。分からないことは分からないままにしておくのが、この段階では誠実です。
活力を整えたいという話であれば、甘草の有無を心配するより、1成分ごとのmgが開示された設計を見るほうが早い。これが、量の透明性という話につながります。
テストステロンより先に、血圧とカリウムを見る成分。
男性コンディションの4軸は、量が開示された設計のほうから組み立てればいい。
よくある質問(FAQ)
迷ったら、噂ではなく数字を見る。
血圧計とカリウムを含む血液検査、そして成分表のmg。この3つで十分に判断できる。
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※本記事は一般的な健康情報であり、特定商品の効能・効果を標榜するものではありません。漢方・服薬中の方は医師・薬剤師にご相談ください。






