- 気分の落ち込みとテストステロンの低さは結びついている。
- 補うと抑うつが軽くなった、という統合解析がある。
- ただし勃起・性欲・活力・精子で、出方はまるで違う。
- 栄養を足すなら1成分ごとの配合量で選ぶ。
「やる気が出ない」「気分が沈む」「何にも興味がわかない」。これを性格や歳のせいで片づけていませんか。ここでは勃起・性欲・活力・精子という4つの軸で、2026年8月時点で実在を確認できた論文だけを読みます。都合の悪い結果も、その研究が何を測ったのかまで書きます。
低いとうつになるの?

なりやすい、という関連は多くの研究で出ています。ただし「低いから必ずうつになる」という因果までは示されていません。
高齢男性を対象にした研究があります。遊離テストステロン(実際に体で働ける状態のテストステロン)がいちばん低いグループで、うつの割合が高いという結果でした。しかもこの差は、体の病気の多さだけでは説明しきれないとされています(Almeida 2008)確度 低め(観察)。
図:一般的な関連の説明です。テストステロンは筋肉や性機能だけでなく、意欲や気分にも関わるホルモンとして研究されています。
性腺機能低下症の高齢男性を追った研究もあります。うつ病と診断される頻度が高い、という結果でした(Shores 2004)確度 低め(観察)。米国の大規模調査を解析した研究でも、テストステロンと特定の抑うつ症状の結びつきが確認されています(Ge 2022)確度 低め(横断)。
数値が下がる理由そのものは、テストステロンが下がる原因にまとめました。
低い人ほど抑うつが多い、という関連は複数ある。
ただし観察した研究なので、どちらが原因かまでは言えない。
補うと気分は変わる?

軽くなったという報告があります。しかも小さな試験ではなく、多数の試験をまとめた解析で出ています。ここは比較的しっかりした根拠です。
27のRCT(くじ引きで2つのグループに分けて比べる、いちばん信頼できる試験)、合計1,890人をまとめた解析があります。テストステロン治療はプラセボ(見た目は同じで中身が入っていない偽物)にくらべ、抑うつ症状を有意(偶然では説明しにくい差)に軽くしていました(Walther 2019)確度 高め(統合解析)。
試験の本数
男性の人数
調べられた人数
ただし対象は、数値が実際に低い男性です。テストステロン治療は医療であり、診断と管理が前提になります。制度としての枠組みはテストステロン補充療法(TRT)とはにまとめました。
27の試験・1,890人で、抑うつ症状は軽くなっていた。
ただし対象は数値が低い男性。まず検査で自分の位置を知る。
うつが先か、低下が先か?

どちらも起こります。矢印は一方通行ではなく、両方向に向いています。ここを知っておくと、打つ手が増えます。
うつの状態では、眠りが乱れ、動く量が減り、食事も崩れます。ストレスホルモンも上がります。どれもテストステロンを下げる方向に働く要素です。実際、大うつ病の男性は健康な男性より数値が低いという報告があります(Berglund 2017)確度 低め(観察)。
図:この双方向性が悪循環を生みます。逆に言えば、どちらか一方に手を打てば、流れは変えられます。
性の悩みの側からも同じ形が見えます。うつと性機能の関係を調べた大きなまとめでは、うつがある人で性機能の不調が増えていました(統合したリスク比1.52、調整後で1.71)。逆に、勃起の不調を抱えた男性は、あとからうつと診断される確率が約3倍でした(Atlantis 2012)確度 高め(統合解析)。
ストレスとホルモンの関係はストレスとテストステロンに、不安が勃起に響く仕組みは心因性EDと緊張にまとめています。
矢印は両方向を向いている。
勃起の不調があると、あとからうつと診断される確率が約3倍。だから片方だけ見て終わらせない。
勃起コンディションはどうなる?

落ちる方向に動きます。しかも気分の側からも、薬の側からも、両方から影響を受けます。ここは4つの軸のなかでデータが多い部分です。
まず気分の側です。先ほどのまとめでは、うつがある人で性機能の不調が1.5〜1.7倍に増えていました(Atlantis 2012)確度 高め(統合解析)。原因はホルモンだけではありません。意欲そのものが落ちる、体が動かない、といった経路も重なります。
次にホルモンの側です。65歳以上で数値が低く、性欲が落ちた男性470人を対象にした二重盲検(本人にも担当医にも、どちらを飲んだか分からないようにする方法)の試験があります。テストステロンを1年使った群で、性的な活動・性欲・勃起の機能がいずれも改善しました(Cunningham 2016)確度 中(比較試験)。
三つ目が薬の側です。SSRIという種類の抗うつ薬をまとめた解析では、性機能の不調が増えていました(Ferraz 2026)確度 高め(統合解析)。だからといって自己判断でやめないでください。中断は危険です。薬の種類ごとの違いは抗うつ薬とEDにまとめました。
材料の側も長く研究されてきました。勃起のときに血管をゆるめているのが一酸化窒素(血管をゆるめて広げる物質)です。そのもとになるアミノ酸が、L-シトルリンとL-アルギニンです。2つの違いはシトルリンとアルギニンの違いに整理しています。見るべきは名前ではありません。1日あたり何mg入っているかです。
気分・ホルモン・薬の3方向から影響を受ける。
だから原因を1つに決め打ちしない。血液検査と服薬の見直しが先。栄養を足すなら1成分ごとのmgで選ぶ。
性欲や性生活は落ちるの?

落ちます。しかも本人が「うつだ」と気づく前に、うつの初期のサインとしてここから先に出ることがあります。
先ほどの470人の試験では、性欲そのものが改善していました(Cunningham 2016)確度 中(比較試験)。同じ計画の全体をまとめた報告でも、性的な活動と性欲が動いています(Snyder 2016)確度 中(比較試験)。つまり性生活の軸は、テストステロンがいちばん反応しやすい場所です。
薬の側も無視できません。SSRIをまとめた解析では、性の満足度が下がる方向に働いていました(リスク比1.21、95%信頼区間1.11〜1.32)。性的欲求そのものについては、下がる向きは見えたものの、偶然では説明しにくいと言い切れるほどの差ではありませんでした(リスク比1.40、0.92〜2.12)(Ferraz 2026)確度 高め(統合解析)。
性欲が落ちる理由はホルモンだけではありません。全体像は性欲が落ちる原因にまとめています。
性生活の軸は、テストステロンがいちばん動いた場所だった。
ただし薬の影響も重なる。飲んでいる薬の一覧を持って、医師に相談するのが早い。
活力やスタミナは戻るの?

ここは正直に書きます。「活力」を物差しにした試験では、決めておいた基準に届きませんでした。同じ治療でも、測るものを変えると答えが変わります。
65歳以上・数値が低い男性788人を対象にした一連の試験があります。そのうち活力の試験には、疲労感が強い474人が入りました。物差しは疲労感の質問票で、4点以上の改善が達成の条件でした。テストステロンはこの条件を満たしませんでした(Snyder 2016)確度 中(比較試験)。
実際、同じ試験でも点数を連続した数値として見ると、活力・気分・抑うつ症状はいずれも良い方向に動いていました。ただし動いた幅は小さいものでした確度 中(比較試験)。つまり「基準に届かなかった小さな改善」というのが正確な言い方です。
日中の元気は、ホルモンだけで決まるものではありません。睡眠時間、食べた量、鉄やビタミンDの状態も重なります。40代以降の疲れ方の全体像は40代・50代の活力と疲労に、睡眠との関係は睡眠とテストステロンにまとめました。
活力の試験が測ったのは「質問票を4点以上動かせるか」だった。
その線には届かず、連続値で見ると小さく改善していた。日常の元気を見るなら、まず睡眠時間と食べた量を2週間記録する。栄養を足すのはそのあと、1成分ごとのmgを見て決める。
射精や精子への影響は?

影響します。うつが重いほど精液の数値が悪くなる、という報告があります。ここは「気分の問題」が体の数値としてはっきり出る領域です。
中国の精子提供者候補1,000人を調べた研究があります。うつのない523人とくらべ、重いうつの男性では精液量が25.26%低く、精子の総数が37.04%低いという結果でした。運動している精子の割合も13.57%低く、前に進む精子の割合は15.08%低いものでした。うつが重いほど悪くなる形も見えています(Ye 2022)確度 低め(横断・1,000人)。
(重いうつ vs うつなし)
(同じ比較)
入るリスク(うつの既往)
北米で妊活中の男性を追ったコホート(同じ条件の人たちを長く追いかける調べ方)研究もあります。うつと診断された経験がある男性は、精液量が少ない側に入るリスクが4.3倍でした(Yland 2021)確度 低め(前向き観察)。別の研究では、不安ではなくうつのほうが精液の数値と結びついていました(Zhang 2024)確度 低め(横断)。
射精そのものにも影響が出ます。SSRIをまとめた解析では、オーガズムに関わる不調のリスクが3.28倍でした(95%信頼区間2.33〜4.60)(Ferraz 2026)確度 高め(統合解析)。射精が遅くなる、届かない、という形で出ます。妊活中なら、この点は主治医に必ず伝えてください。
1,000人の調査で、重いうつの男性は精子の総数が37%低かった。
横断の調査なので原因までは言えない。妊活中なら、推測せず精液検査で現状を測るのが早い。
「上げれば元気」は本当?

そこまで単純ではありません。高ければ高いほど良い、という関係にはなっていません。
テストステロンと気分の関係を整理した総説では、低い側がうつと結びつく一方で、高すぎる側は攻撃性や軽躁(気分が上がりすぎる状態)と結びつくとされています(Amanatkar 2014)確度 参考(総説)。同じ総説は、低いことがうつを引き起こすと結論づけるには証拠が足りない、とも書いています。
高ければ高いほど良い、にはなっていない。
狙うのは高い数値ではなく、真ん中の範囲。判断は数値を見た医師と一緒に。
男のうつは見逃されやすい?

見逃されやすいです。理由は症状の出方にあります。男性の場合、悲しさよりも別の形で先に出ることが知られています。
出やすいのは、イライラ、怒りっぽさ、意欲の低下、疲労感、集中力の低下、そして性欲の減退です。
「性格が変わった」と言われる
「歳のせい」で片づけられる
相談する代わりになっている
いちばん言い出しにくい
もう1つの理由が、相談しにくさです。抱え込み、酒に逃げ、無理を重ねて悪化する。だから「どうも調子が出ない」を軽く扱わないでください。年齢に伴う変化が気になる人は、男性更年期・LOHのセルフチェックを先に試すのも手です。
男性のうつは、悲しさより怒りっぽさや疲れとして出る。
だから性格や加齢に見える。気づく入口として、体の数値を使うのは有効。
何から始めればいい?

順番があります。まず受診、次に検査、そのうえで生活と栄養です。
第一に、つらい状態が2週間以上続いているなら、精神科や心療内科に相談してください。第二に、血液検査でテストステロンの数値を確かめます。低いかどうかで、打つ手がまったく変わるからです。
2週間続くならためらわない
血液検査。妊活中なら精液検査も
睡眠・運動・食事・酒の量
受診が先、検査が次、生活と栄養はそのあと。
逆にするとサプリ選びだけで数か月が過ぎる。
第三が生活の土台です。睡眠、運動、食事、適正体重、酒の量。ここはテストステロンと気分の両方に重なります。
そのうえで栄養を足すなら、選び方は1つです。血流の材料として研究されてきたのがL-シトルリンやL-アルギニン、伝統的に使われてきた素材がマカや松樹皮エキスです。見るべきは配合されている事実ではありません。1日あたり何mg入っているかと、それを開示しているかどうかです。研究で使われた量と桁が違う製品は、そもそも比べる土俵に乗っていません。
土台は睡眠・運動・食事・酒の量。ここは両方に効く。
栄養は成分名で選ばない。1成分ごとのmgと、その開示があるかで選ぶ。
よくある質問(FAQ)
**Q. やる気が出ないのは、テストステロンが低いからですか?**
A. その可能性はありますが、断定はできません。うつの原因は1つではないからです。まず専門家に相談し、あわせて血液検査で数値を確かめてください。
**Q. テストステロンを上げればうつは治りますか?**
A. 27の試験・1,890人の解析では抑うつ症状が軽くなっていました。ただし対象は数値が低い男性です。正常な人には勧められず、うつの治療の代わりにもなりません。
**Q. 抗うつ薬で性欲や射精が変わりました。やめるべき?**
A. 自己判断でやめないでください。中断は危険です。薬の種類によって性への出方は違います。飲んでいる薬を持って主治医に相談してください。
**Q. うつだと精子にも影響しますか?**
A. 1,000人の調査では、重いうつで精子の総数が37%低い結果でした。妊活中なら、まず精液検査で現状を測ってください。
**Q. 気分が沈むのは気合いが足りないだけでは?**
A. いいえ。ホルモンや脳の働きが関わる体の問題です。自分を責めるより、受診が近道です。
共通する答えは「自己判断でやめない・まず測る」。
薬も栄養も、数値を見てから決める。
まとめ
「やる気が出ない」の裏には、体の側の理由が隠れていることがあります。低いテストステロンとうつは結びついており、補充で抑うつ症状が軽くなったという統合解析もあります。ただし4つの軸で出方は違いました。性欲と勃起はよく動き、活力は決めておいた線に届かず、精子はうつが重いほど数値が悪くなっていました。
やることは派手ではありません。つらい状態が続くなら受診する。血液検査で数値を測る。睡眠・運動・食事・酒の量を整える。そのうえで栄養を足すなら、成分名ではなく1成分ごとのmgと、その開示があるかで選んでください。心と体は、どちらか片方だけでは立て直せません。
軸ごとに答えが違う。だから1つの結論で片づけない。
受診して、測って、整える。栄養はそのあと、mgを見て決める。
参考文献
- Almeida OP, et al. (2008) “Low free testosterone concentration as a potentially treatable cause of depressive symptoms in older men.” Arch Gen Psychiatry 65(3):283-289. PMID: 18316674 — 遊離テストステロン最低群でうつの有病率が高い(身体併存では説明しきれない)。
- Walther A, et al. (2019) “Association of Testosterone Treatment With Alleviation of Depressive Symptoms in Men: A Systematic Review and Meta-analysis.” JAMA Psychiatry 76(1):31-40. PMID: 30427999 — 27試験・1,890人。テストステロン治療がプラセボより抑うつ症状を軽減。
- Shores MM, et al. (2004) “Increased incidence of diagnosed depressive illness in hypogonadal older men.” Arch Gen Psychiatry 61(2):162-167. PMID: 14757592 — 性腺機能低下症の高齢男性でうつ病の診断が多い。
- Ge J, et al. (2022) “Testosterone and specific symptoms of depression: Evidence from NHANES 2011-2016.” PMID: 35757365 — 大規模調査でテストステロンと特定の抑うつ症状が関連。
- Berglund LH, et al. (2017) “Plasma Testosterone and the Course of Major Depressive Disorder in Older Men and Women.” PMID: 28132748 — 大うつ病の男性は健康男性よりテストステロンが低い傾向。
- Amanatkar HR, et al. (2014) “The effect of testosterone levels on mood in men: a review.” Psychosomatics. PMID: 24016385 — 低い側はうつと関連するが、高すぎる側は軽躁・攻撃性とも関連(単純化は禁物)。
- Atlantis E, Sullivan T. (2012) “Bidirectional association between depression and sexual dysfunction: a systematic review and meta-analysis.” J Sex Med 9(6):1497-1507. PMID: 22462756 — うつは性機能障害のリスクを1.52倍(調整後1.71倍)に。勃起障害はのちのうつ診断を約3倍に。
- Cunningham GR, et al. (2016) “Testosterone Treatment and Sexual Function in Older Men With Low Testosterone Levels.” J Clin Endocrinol Metab 101(8):3096-3104. PMID: 27355400 — 65歳以上・性欲低下のある470人。性的活動・性欲・勃起機能がいずれも改善。
- Snyder PJ, et al. (2016) “Effects of Testosterone Treatment in Older Men.” N Engl J Med 374(7):611-624. PMID: 26886521 — 788人の一連の試験。活力の試験(474人)は疲労質問票4点以上という主要評価に到達せず。性機能と気分は改善。
- Ye YX, et al. (2022) “Associations between depression, oxidative stress, and semen quality among 1,000 healthy men screened as potential sperm donors.” Fertil Steril 117(1). PMID: 34656302 — 重度うつで精液量−25.26%、総精子数−37.04%、総運動率−13.57%、前進運動率−15.08%。
- Yland JJ, et al. (2021) “A North American prospective study of depression, psychotropic medication use, and semen quality.” Fertil Steril. PMID: 33966888 — うつの診断歴で精液量が少ない側に入るリスクが4.3倍。
- Zhang Y, et al. (2024) “Association between mental health and male fertility: depression, rather than anxiety, is linked to decreased semen quality.” Front Endocrinol 15:1478848. PMID: 39583967 — 不安ではなくうつが精液所見と関連。
- Ferraz SD, et al. (2026) “Sexual dysfunction associated with selective serotonin reuptake inhibitors in adults with depression: a systematic review and meta-analysis.” Eur J Clin Pharmacol. PMC12923408 — SSRIでオーガズム障害のリスク比3.28(2.33〜4.60)、性的満足度の低下1.21(1.11〜1.32)、性的欲求は1.40(0.92〜2.12)で有意差なし。






